追憶

父が雑記帳に記していることを娘のワタシが転記していこうと思います

アポロ11号

親父は50歳代の頃から現場から遠ざかり

兄貴にすべてを任せていた。

余生を楽しむのにはちょっと早すぎる頃、縁側で孫のお守りをしたりして

のんびりとしていた。

よくおふくろが、

「今からそんな年寄り臭いことでどうすんのよ」

と言っていたらしい。

 

ちょうどそんな頃、神楽坂の店を閉め昼間だけ営業出来る店を探していた。

親父は友達の太田さんに

手ごろな店舗を頼んでいたらしい。

太田さんの車で親父と嫁の4人で小田急代々木上原の店舗を見に行く。

親父は「借りるより買っちめえばいいんだな」と言っていたが

あまりにも大きな喫茶店なので自信がなかった。

南武線の府中あたりのお茶漬け屋さんの居抜き

また南生田の新店舗等々見て回るが手ごろな物件はない。

 

車であちこち廻る途中、親父は自分で手掛けた店舗や家屋を見て

「あの家は俺が30歳の頃建てた家なんだ」

とか

「俺が兵隊から帰ってすぐの年に建てた家だ」

とか車窓からとても懐かしそうにしていた。

浮草稼業の自分とは違い、

親父はどっしりと大地に足を踏みしめて後生に残る仕事をしている。

 

出来の悪い息子で両親に心配ばかりかけるなあ…

アポロ11号が月面着陸したというのに

自分は何をしているのだ。