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親父が大工仕事に行く時は、さっぱりとした格好で
野良仕事のおとっちゃんとは別人に見える。
何時も自転車で現場に向かう。
夕方帰ってくると、土間のかまどの側に自転車を入れ家族で夕飯を食べる。
晩酌もせず、あまり余計なことは喋らない。
おふくろは子供達にさんま一匹ずつ皿に分けると親父の皿には2匹。
子どもたちが豆腐半丁ずつの時でも親父の皿にはまるごと一丁と、家長としての差をつけていた。
建前のある日は子供達全員が親父の帰ってくるのを首を長くして待っている。
おみやげの折詰を楽しみにしているのだ。
鯛や蒲鉾やきんとんがぎっしりと詰まっている宝物だ。
おふくろは羽子板をかたどった小さな蒲鉾でも包丁で切り分配する。
普段口に入らないものばかりで喜んで食べた。
このときばかりは本当に大工の子でよかったと思う一瞬である。
こんな子供たちを見る親父もおふくろも実に嬉しそうで満足気である。
甘い物や魚肉に飢えていた頃の思い出。
きっと自分が骨になるまで忘れないことだろう。