追憶

父が雑記帳に記していることを娘のワタシが転記していこうと思います

親父が棟梁としても職人としても油の乗り切った40歳代後半の頃

登戸のある工場の増改築に叔父と兄貴、弟子の親子と6人で手掛ける。

何もわからない自分に親父は

「板に墨打って寸法通りに切れ」

という。

墨壺の使い方も分からないのにどうしようかな

曲尺で寸法を測った位置に墨壺を置き、糸の先端を持って墨を打とうとしたところ

親父は怒って

「みっともねえな、馬鹿野郎、貸せ!」といい

自分で墨を打ち「この通りに切ろ!」

まだ鋸の横引きも縦引きも分からないころである。

無理もない。昨日まで田圃のかけ干しの片付けや山の粗朶刈りをしていたのだもの

親父は俺が何も知らないのを知っている筈なのに

後年になってから兄弟で大笑いする本当の話である