追憶

父が雑記帳に記していることを娘のワタシが転記していこうと思います

台所

かあちゃんはよく、おさんどんと言っていた

 

若い頃のかあちゃんは揚げ物が得意で

土間でよく天麩羅を揚げていた

 

揚がると菜箸で油を切る

溜めてある揚げ物を

あんちゃんと二人でつまみ食いする

かあちゃんは怒ることもなく

黙々と揚げ続ける

 

中身はさつまいも、かぼちゃ、なす、いんげん

などがほとんどで

間違えても海老やキス、貝などは入っていない

 

余った天麩羅を翌日煮た物も

なかなかおいしかった

 

ある日珍しいドーナツを揚げてくれる

茶色でフワフワに揚がったドーナツに

砂糖をかける

とてつもなく美味しかった

かあちゃんが娘の頃覚えたのかな

田舎では滅多に口にすることは出来なかったと思う

 

かあちゃんは子供たちによく

まんじゅうも拵えてくれた

 

両手でクルクルと回してまるくして

真ん中を指で潰しあんこを入れる

そして指でふたをする

蒸籠で蒸しあがった温いまんじゅう

がぶりと噛みつくように喰う

 

中から熱くて甘いあんこがあらわれる

たまらなく美味い

 

満腹になるまで三つも四つも喰い続ける

大福もぼたもちも美味かったが

特にまんじゅうは美味かった

 

かあちゃんが嫁入りの時に持ってきたのか

それともどこからか買ってきたのか

今川焼の鉄板の器具を見たことがある

 

当時は砂糖も配給の時期があり

長沢の中心地「やんか」に長い行列が出来て

並んだことがあったのを朧げに覚えている

 

どこの家も同じようなものだが

かあちゃんは黒砂糖やサッカリン

よく使っていた

 

五十数年前

かあちゃんの手作りのドーナツやまんじゅう

あの味も匂いも温かさも

今となってはもう二度と食べることは出来ない

子供の頃のようにかぶりついてみたい