粉挽き
かあちゃんは時折
リヤカーに小麦を積んで
大作か五反田に粉挽きに行く
一度だけ五反田のパン屋さんで
小麦粉とパンを交換したのを覚えている
あんぱん、食パン、コッペパン
クリームパン、ジャムパンなど
田舎の子供達にとっては何よりのご馳走だった
あんちゃんも自分もパンが目当てで
かあちゃんのリヤカーを押すのを手伝った
ある日かあちゃんの粉挽きについて行く
原店までの坂道を
あんちゃんと二人で喜び勇んでリヤカーを押す
急な坂道を登り松林を通り抜ける
原店近くの頂上に着くとかあちゃんは
「薫は家で待ってろ!」
と言ってなぜか連れて行ってくれない
何だか分からないまま火がついたように泣き叫ぶ
パンも喰いたいが
自分にとっては少しでも
かあちゃんと離れたくない
泣き叫んで離れようとしない自分に
かあちゃんは業を煮やし
犬ころでも追い払うように石を投げつける
当然当たらないように、だが
諦めて泣きながら帰ったのだが
帰り道のことは何も覚えていない