追憶

父が雑記帳に記していることを娘のワタシが転記していこうと思います

祭り

毎年9月15日

暑い夏が過ぎ、柿の実が少しだけ色づく頃

長沢の中心地にある小高い山の中

諏訪神社で年に一度のお祭りが行われる

遥か彼方にまで聞こえてくる

大太鼓の音や賑やかなお囃子の音が

地元の村人たちを浮かれさせる

 

夕方になるとあちこちから

家族,親戚の人達が連れ立って

神社の道を喜々として歩いていく

表参道から境内に向かう人は皆

手に提灯を持ち

薄暗くなった足元を照らす

 

正面からの参道の両側には

屋台の店が延々と続き活気がある

欲しいものがずらりと並べられていた

 

境内には蓆や茣蓙が敷かれ

皆楽しみにしている芝居の始まるのを

今や遅しと待っている

 

喧噪の中カーバイトやかんしゃく玉

おでん、カルメ焼きの匂いが充満する

 

いよいよ幕が開き芝居が始まると

シーンと静まり返り

身を乗り出して芝居に没頭する

 

当時の芝居は股旅物が多く

「一本刀土俵入り」とか「瞼の母

「関の弥太っぺ」など

特に瞼の母は人気があり

皆大喜びする

 

役者が演じている劇に目を見張り

顔中の筋肉を使って笑ったり泣いたりしている

 

幕間には東海林太郎の歌が蓄音機で流れてくる

 

♪野崎参りは、屋形船で参ろう、どこを向いても

菜の花盛り、粋な日傘に蝶々が止まる

呼んでみようか土手の人

 

舞台の上手、下手には

寄贈品や寄付金が半紙に名前や金額が書かれ

沢山貼られている

 

そんな光景の中

人混みをかき分けるようにして

若い頃のかあちゃん

こんにゃくの味噌田楽を買って来てくれる

おばあちゃん、ねえちゃん、あんちゃん、自分の5人で

串刺しの美味い田楽を喰った

 

2歳か3歳の思い出

あれから約58年

自分の娘のような若いかあちゃんの姿

夢でも幻でもなく

今でも記憶に残っている

あの時の瞬間映像は生涯忘れることはないだろう

 

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