かあちゃん 3.
おふくろが若く30歳の頃
天理教を信じていた時期がある
風邪や腹痛などで具合が悪くなると
デエ(家長の部屋)の床の間の前で
痛いところや具合の悪いところをさすりながら
≪おたすけたまえ、おはらいたまえ…≫と唱える
効き目があるのかないのかわからないが
子を思う母親の真剣さに病魔も逃げ出すようだ
おふくろは一心不乱に続ける
不思議と良くなったような気がする
ある日おふくろに手を引かれ小田急線で
教祖と思われる家を訪ねる
たしか世田谷辺りだと思う
家屋と庭と室内だけ朧気に覚えていたが
どこの場所なのかまったく記憶にない
覚えているのは多摩川を渡るとき
電車の窓から見た川が
恐ろしくて泣きながらかあちゃんにしがみついたのと
周りの人が笑っていたことだけだ
≪溺れる者は藁をもつかむ≫というが
当時は生活苦で縋るような時期があったのかもな